2月4日付
水資源

地下水は誰のもの?

ミネラル水など増加する取水量
現行法は限界、新たな法整備を


 昨年12月18日の各紙は 「富士山8合目以上の土地約400万平方メートルのおよそ96%にあたる385万平方 メートルについて、富士山本宮浅間大社の所有権を認めて譲与した」 と報じた。これは、明治政府が富士山本宮浅間大社の管理下にあった土地を、太政官布告などによって国有地に編入したため訴訟となり、神社側は 「宗教活動に必要なものである」 と主張、国は 「富士山は国民のもの」 と公益上の必要性を主張して争った。しかし、1974(昭和49)年に最高裁で神社側の勝訴が確定し、それから30年を経てようやく「無償譲与」という形で決着したものである。
 それでは、富士山の地下水は一体誰のものだろうか。
 土隆一静岡大学名誉教授は論文 「富士山の地形・地質と地下水」 のなかで、富士山全域の平均降水量、蒸発散量などから全湧水量は日量529万立方メートルと推定、湧水の酸素同位体と水素同位体調査などによって標高1000メートル以上の降水が湧出するまでの年数は10〜15年と推定されることから、富士山の地下には190億〜285億立方メートルの地下水が蓄えられていると推定している。一体この水は誰のものなのか。
 山梨県内の水利用状況を見ると、工業用水は製造業の海外移転や循環利用技術の向上などによりここ5年間で12%減少している。
 一方、地下水にその70%を依存している生活用水は、年々増加し、この5年間で3.5%増となっている。県では、地下水の無秩序な採取を規制するため73年に 「山梨県地下水資源の保護及び採取適正化に関する要綱」 を定め、採取適正化地域を設けるなどの対策を進めてきたが、地下水の浸透や流動のメカニズムについては解明されていない点が多い。
 日本ミネラル・ウオーター協会の2002年の資料によれば、国内ではおよそ400社が年間111万トンのミネラル・ウオーターを取水している。そのうちのおよそ半分は山梨県内からの取水である。
 総取水量から見ればまだわずかであるが、ミネラル・ウオーターの1人当たり消費量は、15年前には年間0.7リットルであったが現在ではその15倍の10.8リットルと急増している。ちなみに、アメリカでは68.9リットル、ドイツ103.8リットル、フランス141.6リットル、イタリア149.7リットルと一桁(ひとけた)違う消費量となっており、今後さらに増加していくものと予想される。
 数年前、「NHKスペシャル」 がウオーター・ビジネスを取り上げ、ネスレ (スイス)、コカ・コーラ(アメリカ)、ペプシ (アメリカ) などの多国籍企業が水資源の獲得や利用権の確保のため世界各地に進出するなど、ウオーター・ビジネスが活発化してきたことを報じている。アメリカでは地下水の枯渇、生態系の乱れ、地盤沈下などから住民との摩擦が起こり訴訟に発展しているケースもある。
 一方、北杜市白州町のように、サントリー、JA熊本果実連、シャトレーゼ、泉食品、白州ヘルス飲料 (コカ・コーラ系) の水関連ビジネスを展開している大手5社と行政が協力して 「水保全・利用対策協議会」 を結成して地下水位の観察を行っているといったケースもある。
 アメリカでは、原則として地下水はその地権者に権利があると考えられているようだが、イタリアでは水は国家のものと考えられている。
 これからますます地下水の取水量は増えていくことになるだろう。ミネラル・ウオーター税・水源税・超過課税などの議論もはじまり、水に関する紛争も増えてきそうである。
 山梨は森の国、水の国であり、東京・横浜・静岡の水源県である。21世紀の山梨にとって森と水はかけがえのない地域資源である。水源林の涵養(かんよう)や水質の維持、下流域を巻き込んだ流域経営という視点からの検討も必要であり、県民一人ひとりがもっと水に関心を持たなければならない。
 水は命の源であり、貴重な社会資本であることは間違いない。現行の河川法、工業用水法、水道法、下水道法、水質汚濁防止法などは、水を治水・利水・給水・排水などある局面でとらえたものであり、これだけでは納得がいかなくなってきている。
  「地下水は誰のものか」 という概念を明確化し、水に関する基本的な法整備が求められているのではないか。



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