3月11日付
「外発的」 から 「内発的」 へ

健康長寿県・山梨からの提案

機械電子工業との連携強化
温泉など総合自然療法活用


 25年ほど前の国母工業団地は見渡す限りペンペン草の畑であった。ロボット産業や製造装置メーカーが次々と進出したのは1982 (昭和57) 年中央高速自動車道路が全線開通した頃からであった。後背地に諏訪・岡谷という精密部品基地を控え、大市場東京に近接する立地の良さから大型組み立て加工メーカーの集積が進み発展していった。企業誘致による外発的発展ではあったが、下請け企業、孫受け企業が育ち、雇用が創出され県民所得も向上して豊かな山梨が形成されていった。
 ところが、中国が 「世界の工場」 として躍進するにつれて、山梨の産業構造にも変化の兆しが見えてきた。これからBRICs (中国・インド・ロシア・ブラジル) の台頭が予想されるだけに安閑としてはいられない。
 20世紀は工学の発展を基礎として、豊かな生活を享受できるようになった。しかし反面、原油や水資源をはじめとする資源の枯渇、環境の悪化などの不安が広がってきた。2月16日には京都議定書が発効され 「地球の環境問題は時間との競争である」 とまで言われている。
 こうした中で、アメリカでは「健康と環境」を志向する新しいライフスタイルが注目されている。社会学者ポール・レイ博士が発表したLOHAS( Lifestyles of Health and Sustainability)である。
 1. 持続可能経済への貢献と社会的責任投資 2. 健康的なライフスタイルづくり 3. 東洋医学など西洋医学以外の治療法である代替医療重視 4. 自己啓発 5. 再生可能な製品による生活スタイルなどを志向する人々である。確かに、アメリカだけでなく日本でもLOHAS的なライフスタイルを求める人が増えてきた。家計調査報告を費目別に追ってみると健康保持用摂取品、栄養補助食品、エステティックサロンなど健康、環境、美などに関連する消費が伸びている。
 さて、県の05年度予算を見ると、三位一体改革による緊縮型予算の中で 「総合理工学研究機構」 開設に7691万円、「バイオビジネス関連新技術・新製品研究開発」 に1000万円、「バイオ産業集積促進事業費」 に104万円を計上し、次代の山梨を担う産業としてバイオマス産業の芽を出そうとしている。
  「バイオ」 とは 「生命の」 という意であり、直訳すると 「生命産業」 となるが、具体的には酵母菌などを利用した味噌(みそ)・しょうゆ・ワインから遺伝子組み換え大豆やクローン牛まで生物学的な技術を応用したすべての産業が含まれ、食品・農林畜産・エネルギー・医療・医薬・化粧品まで応用範囲は広い。従って、企業誘致だけではなく、山梨の資源を生かした内発的発展をめざすことになろうが、その場合、二つの側面からのアプローチが必要である。
 一つはハード的な発想である。技術開発、製品や商品を開発製造し、内外へ販売していくというモノづくりの拠点をめざす発想である。
 もう一つはソフト的な発想である。山梨の森林や水、景観や観光、健康長寿県といった資源を利用し、サービス産業の集積地をめざす発想である。
 ハード志向の事例では、仙台市が地元中小企業とフィンランドのノキアとの技術提携を後押しし、介護施設や医療現場のニーズをくみ上げ、医療福祉機器の製造拠点をめざしている。国際的な視点をもった官の支援のあり方も参考になるが、食品や環境関連バイオ産業の振興には製造装置や検査装置など機械電子工業との連携が必要であり、産・学・官・民の力を結集していかなければならない。
 ソフト志向の事例では、ドイツのクナイプ療法が参考になる。フランスやイタリア、ドイツでは 「温泉療法」 が 「最も安全で、安価な医療」 として医療保険の適用を受けている。中でもドイツに64カ所あるクナイプ保養地では、森林セラピー、温浴療法などによる総合自然療法により子供の保育・教育、老人医療、障害者療育、心理的保養などを進め、医療費の抑制に効果を上げている。現在、日本の医療費は年間31兆円を超えている。2025年には70兆円にふくらむ見通しであり、医療費抑制策としても 「健康長寿県山梨」 から新しい提案をしていきたいものである。 



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