6月10日付
アイデンティティー確立

“街づくりの競争”の時代

自由な発想と実行力で
市民の政治参加に期待


 東アジアにおいても国と国との関係が急に忙しくなり、それぞれが難しい局面にぶち当たっている。内外に諸々 (もろもろ) の問題を抱えながらも、それらを克服して何とか存在感を強め、アジアのリーダーたらんとしている。東アジア各国には資源が少ない、民族問題がある、貧富の差が拡大し表面化してきた、技術開発が未発達で周辺国への依存度が高い、統治制度に限界が見えてきたなど、一朝一夕には解決できない深刻な問題を抱え危機感を募らせている。しかしながらいずれの国もそれらを梃子 (てこ) にして国を発展させようという意欲に満ちている。
 経済が発展してグローバル化が進み社会構造が変化する中で、国際政治での力量が問われている。通信や交通が高度に発達して、地球が実質的に小さくなって平準化や均質化が進むと、国や地域はよほどしっかりとした考え方をもって自己主張をしていかないと存在感が薄れてしまう。いわゆるアイデンティティーの確立が求められる所以 (ゆえん) である。
 このことは国家間、地域間の関係にとどまらず、合併前の旧町村も新しく生まれた市や町も、さらには県さえもが例外ではありえない。自治体がひとまわり大きくなって行政が効率化し、財政基盤が強化されるのは大いに好ましいことであるが、これは出発点であって終着駅ではない。今後、行政が従来の中央集権から地方分権・地方自治強化へと大きく方向転換していく中でのスタートであることを念頭に置かねばならない。
 これからの自治体は国や県からのいわゆる 「許認可」 を待って、ことを起こすのではなく、自ら考え自らの力量で、自らの責任のもと、文字通り主体的に行政に取り組むことになる。
 そういう意味では首長や議会・行政担当者はもちろんのこと、市民も含めてそれぞれの責任は飛躍的に増大することになる。すなわち、為政者集団の力量と住民の参加、協力の結果が総合力として問われ評価される。批判ばかりしていたり、いわゆる 「お上」 のせいにしていては何も進まないし解決しない。行政が停滞し、近隣の自治体との間に大きな遅れを生ずる。
 今後は何事も常に前向きに考えリスクをとって行動することが求められる。この辺の事情について関係者はどの程度覚悟を固め緊張感を高めているのだろうか。中央集権から地方分権へのこの流れは強まる一方であることを、思考と行動の原点に据えておかねばならないと思う。
 これからは自治体の競争の時代である。分権化は自由度を増し、自由は競争を生む。企画力と実行力の競争となる。財政基盤の強化や、福祉をはじめとする生活行政に関する企画の競争がまず起きるだろう。そしてそれは 「わが街づくり」 の競争へと展開されていくだろう。できるだけ多くの補助金を獲得して、できるだけ多くの事業をやることが良い政治だという時代は終わった。それは高度成長時代にのみ有効な論理である。これからの高度福祉社会建設の道はお金の競争ではなく、わが街をどのような魅力に富んだ街にしていくのか、というコンセプトづくりと、それを実現していくにふさわしい態勢をどのようにして築いていくか、の競争となろう。すなわち、アイデンティティーの確立の競争である。
 現在ある施設が過剰だからといって直ちに取り壊すのではなく、いかにして有効に活用するか、どんなイベントをして自らも楽しみ観光客を呼び込むのか、子孫がわが街から抜け出すのを嘆き恐れるのではなく、安心・安全で住みやすく楽しいことがたくさんある街だ、税金が他よりも安いといって他地域から競って移住してくるような街にしたい。すでにそのような兆候のある地域が県内にいくつか現れているし、特色のあるイベントが競って行われるようになってきた。
 県内各地に活性化の兆しが起きてきている。同色系統の追いつき追い越せの競争ではなく、他にはない特色ある存在になることを目指しての競争だから、教科書はないが自由に発想できる楽しみと実行力を発揮できる喜びが生まれる。
 折りしも山本栄彦知事の強力なリーダーシップのもと、県をあげて 「観光立県」 に取り組んでいる。観光は観光地だけの問題ではない。県内各地がそれぞれの特性を存分に活かして、他には見られない魅力ある街になることであり、そうなった時に、はじめて山梨県は 「観光で立県」 できることになるのではなかろうか。
 幸いなことに大いなる自然に恵まれているうえに、過去数十年の蓄積で各地に立派な施設ができている。これをどのようにネットワーク化し、新たな息吹を与えてわが街の活力源にしていくかは未来に向けての楽しい課題である。観光政策の素材と基盤は十分に整っている。新たな街づくりに進んで取り組もうという市民の決心と地域政治への参画こそが、地域と県の活性化を一挙に進めるエネルギーになると期待してやまない。



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