7月8日付
石原都知事

「社会の劣化」背景に共感呼ぶ

大衆扇動的政治手法に怖さ
都議選でも批判鮮明とならず


 アメリカ・カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガー知事の人気が急落しているらしい。報道機関がした世論調査によると、一時は60%を越えていた支持率が37%まで下落、来秋に予定されている州知事選挙での 「再選を望まない」が57%に達しているという。小さな政府を目指した改革案が、議会多数を握る民主党勢力に阻まれて進まないのが原因らしいが、政治運営は超人的な肉体で敵を次々とやっつけた映画のヒーローのようにはいかなかったようだ。
 アメリカでは当初、かなり国内で支持が強かったイラク派兵に対する批判が強まり、ブッシュ大統領は支持率回復に懸命だ。先日、多くの部隊を派遣している国内の基地で行った演説では、何度も9・11同時多発テロに言及、アメリカ国民にイラクでの戦争がテロ抑止のためのものであることを印象付けようとしていた。しかし、最近ABCが行った世論調査では、52%のアメリカ国民がイラク戦争は誤りだったと考えているという。
 熱が冷めるといえば、一時大フィーバーだった小泉純一郎首相の支持率も低迷している。持論の郵政民営化改革がわずか5票差で、衆院で可決されたが、それによって人気が回復することはなさそうだ。年金改革や道路公団改革を見て、小泉改革というのは、結局のところ弱者や声の小さい層に負担を押し付けるばかりで、崩壊に瀕 (ひん) している日本社会を抜本的に救うものではないという本質が見えたからではないか。
 このように、一時的な人気が冷めるのは社会の健全な反応だと思う。逆に、大衆的人気だけに支えられた政権には危うさがつきまとう。理屈抜きで、感情で支持が動くから、うっかりすると国がとんでもない方向に暴走しかねない。
 石原慎太郎都知事の大衆扇動的政治手法にはこの怖さを感じる。この人の人気のもとは歯に衣着せない語り口だ。しかし、「生殖機能を失った女性が長生きするのは社会にとって有害だ」(本当はもっとひどい表現なのだが)とか、「最近の凶悪犯罪のかなりの部分は外国人がからんでいる」、あるいは、(国家・民族意識の覚醒 (かくせい) のために)「北朝鮮のミサイルが国内に一発落ちてくれればいい」など、暴言としかいいようのない発言が少なくない。
 この種の言葉は、親しい仲間で飲んで、酔っ払ったおやじがかなり低俗なレベルの本音として語ることはあっても、都政をあずかる政治家が公の場で言うべきことではない。しかし、石原知事はそれを意識的にやって、人気取りを図っているのだ。
 石原都知事が処罰という強権発動を背景にやらせている学校行事での国歌の斉唱と、その際の起立の強制にも気味の悪いものを感じる。政治がここまで国民の内心に踏み込むことがあっていいのだろうか。教育基本法が禁じている 「教育への不当な支配」 にならないのだろうか。これも人気に支えられた傲慢 (ごうまん) さがさせているのではないか。
 しかし、今月3日に行われた都議会議員選挙の結果、自民党の議席は減ったが (前回小泉フィーバーで生じた追い風が今回は吹かなかったということらしい)、石原都政への 「批判鮮明」 というほどの変化はなかった。むしろ選挙当日の調査では、石原都知事個人への支持率はなお高いという。
 東京都という首都で起こっていることは、やがて日本全体に波及する可能性がある。石原都知事の手法は理性でなく、感情に働きかけるものだ。政治に熱狂がからむと必ず悪い方向への暴走が始まることは、ナチの前例がよく示している。財政や年金など日本社会の将来への不安、改善しない雇用環境、談合などの社会的不正への憤りなど、「社会の劣化」 へのいらだちが、石原都知事の語り口に共感させるとしたら、この流れの行き着くところに大いに不安を感じる。他の自治体の首長ではあるけれど、この人の言動には皆で注目している必要がありそうだ。



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