7月15日付
我流ガンバリズム

「頑張る」とは役割の全うだ

プライドもち難題にあたれ
大切な 「仕上がり」 の想像力


  「頑張って来いよ!」 と勤めに出掛ける息子を励まし 「僕たちも今日一日しっかり頑張ろう!」 と家族に声を掛ける−。どこの家庭でも職場でもよく見られる朝の風景だ。おそらくは遠い昔から日本中いたるところで日々こうした掛け声が掛けられ続けてきたのだろうと思う。
 だが少し角度を変えて考えてみればちょっと変な気がしないでもない。我々は、毎日 「頑張ろう!」 と掛け声を掛け合い緊張感を高めることをしなければ仕事が進まないほど、怠惰な人間の集まりなのだろうか。そんなことはない! ではなぜ?
 よくわからないが 「勤勉で和を尊ぶ国民性のあらわれ」 ということなのだろうか。個人主義と自己責任の感覚が強い外国では、こういうことは滅多に見られないことだと思うのだが。
  「頑張り」 はいつの時代でも大切な要素だが、時代とともにその内容は随分と変化してきたのではないか。何事も頑張りさえすれば成果が上がる時代はとうに過ぎて、今や 「何をどのように」 頑張るのかが重要な問題として考えられるようになってきた。例えば、組織の上に立つものの頑張りは、皆の先頭に立って手本を示すことではなく、「皆が頑張れば成果が上がる仕組みを作りあげること」 にまず振り向けられるべきであるし、組織を担う一人ひとりの構成員は 「皆で力を合わせて」 ではなく、一人ひとりが自分の役割をきちんと果たすこと、つまり、「組織の示す考え方を正しく理解し、組織の命ずる手段・方法に忠実に従って、目標を達成するまで責任を持って頑張り通すこと」 が求められる。この役割の分担がきちんと理解され、実行された後に、それらの総和として組織の成果が生み出されることになる。四角四面に考えると 「頑張る」 という一言が持つ現代風の内容はこういうことになるのではないか。
 ビジネスの現場に身を置いた四十数年の間に、折に触れて書き止めておいた手帳を開いて、我流 「ガンバリズム」 を整理してみた。何に対して、どの様に頑張るのかについての考え方である。仕事の成果は 「身体的ガンバリズム」 にではなく、「考え方と取り組み方」 に負うところが大きいと考えるからである。
 1. まず、自分自身を 「問題解決請負人」 と規定する。厄介な問題を嫌がるのではなく、「問題を解決するために自分が選ばれてこの任にあるのだ」 というプライドを持つことが、難問に立ち向かう勇気とエネルギーを生む。
 2. 次に、課題に取り組む前に「ちょっと待てよ!」 「この問題の由来は?」 「出来上がりの姿は?」 と 「魂」 を飛ばして想像する。すると 「この問題の本来あるべき姿は何か」 が見え、「段取りはどうしたものか」 と心は、はや解決に向かって走り出す。
 3. 出来上がりの姿は、「僕ならではのもの」 でなければ気が済まない。目指すは周囲や上司の期待するレベルの120%だ。達成した時のあのすがすがしさを想像するとエネルギーが倍加する。
 4. 仕事とは 「現状打破」 であり 「改革」 である。だから困難が付きまとうのは覚悟の上のこと。「やり易い仕事」 を次から次へとこなすことに安住するのでなく、「困難ではあるが価値ある仕事」 を進んで探し、これに取り組むことが人生を充実させることだと考える。
 5. ただし、事を始めるにあたっては先輩や周囲の人々の理解が得られるように 「周到に準備を重ねて礼儀正しく当たれ!」 と先輩に教えられた。
 6. 何事についても周囲の意見を進んで求めるが 「決める時は自分一人で」 「責任はすべて自分にあり」 と心得た。
 7. 森羅万象すべてを前向きに受け入れることにした。「No,but,」ではなく常に「Yes, Yes and Yes, それからBut」 批判や否定的な態度からは成果は生まれない。常に前向きなポジションをとっていれば、困難なことにも「工夫」や「仮説」 や「情熱」が生まれ「活路」 が見えてくるものだ。
 8. 仕事が困難なことであればあるほど、その成功には「運」の力も大きい。明るく賑 (にぎ) やかにしていれば「運」が向こうからやってくる。暗い顔からはせっかくの「運」も逃げて行くとも教えられた。
 9. プロとして社会のお役に立つ仕事をするためには 「職業人としての仕事の腕」 を上げることの大切さをいつも考え、時間外に 「腕を磨く」 努力をする。舞台俳優がスポットライトを浴びていない稽古 (けいこ) 場で、台詞 (せりふ) を一生懸命に覚えようとしている姿を想像して−。
 結局のところ仕事とは 「人間を磨く道場」 であり 「人間として最も生き甲斐を感ずる舞台であり」 「人生の重要な一部分である」と考え、「我が命をどのように燃焼させるか」 に挑戦して来た。
 参考になれば幸いだ。



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