8月26日付
きめ細やかさ

ギスギスした世界から抜け出そう

「緑の回廊」は自然との共生
小さな幸せ感じる心の余裕


 昨年とは違う意味で暑苦しい日々を過ごされている方々も少なくないと思います。こうした時期に、大上段の提言も野暮と思いまして、今回は提言に代えて2つのお話をさせていただきます (正直に申し上げれば、夏休み明けで頭のネジが緩んでおります)。
 皆さんは、「緑の回廊」をご存知ですか。恥ずかしながら、小生は最近まで知りませんでした。林野庁が進めている事業で、保護林を相互に森林で結び、野生の動植物の移動経路を作り、森林の生態系を保護するのが目的です。1999年度からスタートし、既に全国で17の地域に設定されています。森が繋 (つな) がり、生き物が道路に寸断されることなく自由に移動できる。ほのぼのとしたイメージが浮かんできます。
 しかも、富士山、八ケ岳、秩父、丹沢と17のうち4つが山梨県および隣接県にあり、いわば、山梨は緑の回廊に囲まれています。まだ、スタートしたばかりで、整備することはいっぱいあるでしょうし、生き物は国の設定した地域とは関係なく行動する訳ですから、その地域を広げていくことも必要です。
 また、甲府支店長時代にうかがったサル、シカ、イノシシなどの鳥獣被害もそこに暮らしている方々にとって深刻な問題です。ただ、動物のいない森とかチョウチョの飛んでいない畑は不自然です。また、森が豊かになれば、動物は森で食料を賄えます。そろそろ、自然との戦いから自然との共生に軸足をシフトして、自然とうまく付き合うことを考えてもいい時期ではないでしょうか。
 都会に住んでいると、森が遠くて抽象的な存在になってしまいます。より身近にその恵みを実感できるような存在に戻るとありがたい気がします。蛍や魚が観光シーズンやお祭りの時にしか見られないというのは本物ではありません。ごく普通に接することが出来る地域再興が大切です。調査・研究や利害調整など課題は山積していますが、「緑の回廊」の将来が楽しみですし、山梨はそのシンボル的な存在になり得る立地条件を持っています。
 2つ目のお話は、「お多福」です。先日、近所の方から、加藤エイミー著「お多福」(発行チャールズ・イー・タトル出版) という本を頂戴 (ちょうだい) しました。日本で古くから馴染 (なじ) みのお多福をユニークな視点でとらえ、写真やエッセイで紹介した本です。面白かった。アメリカ出身のエイミーさんは、日本に30年住んでいて日本文化にも造詣の深い方ですが、曰 (いわ) く、「人生には、楽しみや笑いといった心の糧も必要であり、お茶目なお多福さんは、われわれの日常生活を陽気にし、心を癒してくれる」。
 確かに、本の中の様々なお多福さんには思わず微笑んでしまいます (ちなみに、ヤフーでお多福を検索すると17万件、結構な人気です)。
 ところで、皆さんは、どのような時に「幸せだなぁ」と実感されますか。大きな壁に立ち向かい、並外れた苦労をして、ようやく目標に到達した時の大きな達成感ですか。どなたにも、そうした経験はあると思います。ただ、そんなに多くもないと思います。年がら年中、大波が到来していては身が持ちません。
 エイミーさんが言っている「日常の生活における小さな幸せの積み重ね」が人生を豊かにしているのは確かです。何かドタバタしていると仕事をしている気になってしまう小生としては、反省しきりです。
 ちょっとしたことに喜びや楽しみを感じられる心の豊かさ (感性) というか余裕が大切ですが、これは、国や制度・法律では解決しないテーマでもあります。ただ、一人ひとりがそういう気持ちになり、それを重ね広げていけば、もっと住みやすくなると思います。ギスギスして煮詰まった世界からみんなで抜け出しましょう。きめ細やかさこそ、この国の持ち味ではありませんか。



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