9月16日付
総括・総選挙

万事を白紙委任していない

「郵政」後の具体的改革策示されず
「人気取り政策」は国を滅ぼす凶器


 衆議院解散後約1カ月にわたる政治ショーは大方の予想をはるかに超える自民党の圧勝で終わった。政治の安定は本来的には国際社会の信頼を増し、国内的には改革を進める基盤の強化につながるものだが、今回の選挙結果を楽観視して良いものかどうか考えてみたい。
 今回の選挙では、従来は考えられなかった新たな現象がいくつか生じ重要な問題が国民に提起された。政治は本来的には 「考え方の選択」 であるはずだが、今回はアピールの仕方や顔かたち、衣・やパフォーマンスが重要な選択肢となるような舞台が設定されてしまった。選挙が「ショー」 といわれた所以 (ゆえん) であろう。
 国民生活に何の影響ももたらさぬタレントの人気投票ならそれでも良いが、政治は権力を生み、その権力がどのように行使されるかによって国際関係も国民生活も大きな影響を受ける。政治の舞台の上の出来事は我々の生活を直接大きく左右するものであることを、選挙民は十分に考えて投票をしたのだろうか。投票した結果責任は次の選挙までの間、我々自身が負うことを覚悟しなければならない。
 政権党は郵政民営化関連法案にのみ焦点を絞って、その賛否を問うという挙に出た。わが国ではいまだ制度化されていない 「国民投票」 のスタイルである。郵政民営化を改革の入り口と位置付け、「これが出来ないようなら今後改革は何も進まない!」 と国民に強く訴えたが、今後どのような改革を、どんな考えで、どの様に進めていくかについては、野党やマスメディアの追及にもかかわらず、あえて明言を避け続けた。
 郵政にのみ問題を絞って国民の支持を受けた政党が、今後あたかも万事が白紙委任をされたかのように、憲法問題や税制や福祉政策に立ち向かうとすれば、それは今回の選挙が国民を欺くものであったことになる。民主主義の根底を揺るがしかねない大問題である。単純明快で 「判りやすい」 ということで判断した国民は今後大きな付けを払うこととなる。
 本来、民意を問うということはまず過去から現在に至るまでの事実を明らかにし、さらに将来如何 (いか) なる事態が起こり得るかを想定した上で、採るべき政策の選択肢をいくつか示して、国民の判断を求めることであろう。
 小選挙区制度は 「党営選挙」 であるということが余すところなく明らかになった。自民党においては派閥の機能が著しく低下した。選挙はかって 「地盤」 「看板」 「かばん(資金)」 といわれたが、地域社会とはあまり関係のない、いわゆる 「落下傘候補」 が 「刺客」 として登場した。地域よりも、党の一握りの幹部の力によって候補者が指名され、公認されて当選する時代になるのだろうか。
 参議院における郵政関連法案の採決に当たっては、行政府の長たる首相の影響力が従来考えられなかったほど強く発揮された。議院内閣制であるから政権党の代表が行政府の長に就くのは当然のこととして、さればと言って、行政府が議会の判断に圧力を加えるようなことは三権分立の大原則を否定するものである。今後、重要法案の採決のたびに、こうした行政府の圧力が加わり否決されたら国会は解散され、反対した議員には刺客が送り込まれるような事態が繰り返される恐れがないとはいえない。それはもう圧制でしかない。
 これからの国政選挙が派閥力学や地縁関係ではなく、「落下傘候補」 を含めてあくまで政策論争によって競われる時代になるとしたら、それは本当に画期的な政治の改革となる。だが政策論争を真面目に展開するためには、発言の内容は論理的で矛盾がなく、十分に説明されていると国民が納得するものでなければならない。ワンフレーズ発言は一見判りやすいと錯覚されがちであるが、「多くを知らせる必要はない。従わせれば良いのだ!」 という為政者固有の独断的論理である。このことを選挙民に悟らせるのは至難の業ではあるが−。
 政治は崇高な行為である。異なる立場に立つ人々の様々な声に耳を傾けながら、明るい未来を築くことに挑戦する、手数のかかる仕事である。誰よりも言葉を大切にして、丁寧に自分の考えを語ることから全てが始まるはずである。対話なくしては信頼も期待も生まれない。政治家を信頼できない国民は不幸である。内容のない言葉の羅列と国民へのリップサービスは 「人気取り政策」 そのものであり、欧州先進国がかって苦汁をなめたように国を滅ぼしかねない凶器である。
 国民も政治に対してもっと真剣にならなければならない。今後取り組まなければならない国際関係の改善や財政再建、福祉政策などについては玉虫色の解決はありえない。国家間・世代間・都市と地方などの間で厳しいせめぎ合いが起きることは避けられない。信念を吐露してお互いの考えの共通点と相違点とを明らかにした上で、歩み寄りを模索するという論議の仕方の世界標準を取り入れなければ、従来のごとき問題先送りに終始することになってしまう。
 問題先送りは、国家も社会も自分たちも没落に直結することを、今こそ真剣に考えなければならない。選挙は終わったが、政治からはいまだ眼 (め) が離せない。



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