9月30日付
雇用創出

われわれの価値観の改革を

中高年、女性らに“門戸”を
地方の中小企業こそ実現可能


 原油高騰など経済を不安定化させる要因が多い割に、最近のわが国の経済情勢には景気回復の兆しが感じられます。様々な 「改革」 に取り組みやすい経済環境になってきたとも言えます。
  「改革」 という言葉には何となく期待を持ちたくなる雰囲気がありますが、大切なことは、改革の方向や中身を決めるのは、われわれ国民であるということです。政府任せで枠組みを変え、それに乗っかっていればいいという話ではありません。改革を進め、将来の不安を解消するには、個人個人の前向きなトライによって、改革に“魂を入れる”ことが大切です。
 例えば、先週、総務省が敬老の日にちなんで発表した高齢者推計人口によると、65歳以上の方々の割合が5人に1人を超え、過去最高となりました。欧米主要国と比べても高く、各紙ともいかにもこれから大変だという論調でした。でも、平和で豊かな国であれば過渡的に老人が増え、子供が減るのは当然であり、むしろ、戦後わが国の自慢していい大成果ではないでしょうか。
 年齢構成がきれいな円筒形 (どの世代もほぼ同数の姿) であることは現実にはありえません。企業でも年齢構成の凸凹 (でこぼこ) をやり繰りするのが人事担当の永遠の課題です。前提が変わり、現在の制度で対応できないのであれば、新しい前提に合った新しい対応をすればいいだけの話ですし、前提が変わることはいつの世にもあることです。
 その際、重要なのは、何に重点を置くのかという選択です。何でもかんでも一律では、単なる縮小均衡になってしまいます。何かを我慢して、何かを充実させるという価値判断が求められます。改革とは、枠組みの変更ではなく、われわれの意識や価値観の改革です。
 ところで、様々な改革の中で、個人的に最も重要であると思うのは、「雇用の改革」 です。「少子高齢化で労働人口が減少する」 との危機感を煽 (あお) るような意見も少なくありませんが、言わせてもらえば、それは、従来型の18歳から60歳の正社員を前提にした話に過ぎません。中高年層、若者、女性、身体障害者など世の中には働きたくても働けない人々がたくさんいます。どこが労働人口不足なのか。就労のための条件整備が面倒だという考えがありませんか。
 “働く場がある”ということは、人の気持ちを前向きにします。また、少しでも収入があれば安心するし、社会の一員という満足感も得られます。“雇用創出は政府の仕事”といっても限度があります。やはり民が主役です。今までの枠組みに囚 (とら) われず、様々な仕事を生み出し、様々な人達に、様々な雇用形態・賃金で働いてもらう。いわば、今まで閉ざしていた門戸を開く“雇用のグローバリズム”を是非お願いします。雇用が草の根のように広がれば、他の改革の強い基盤にもなっていきます。
 その観点からは、地方が有望です。企業が大きくなると、公平性などから採用も画一的になりがちです。また、能力主義の必要性は分かりますが、「自分には特別な能力がない」 と自信を失っている人も少なくないと思います。突き詰めた姿は、結構寒々としたものになりかねません。
 大切なことは、“誠実で善良な普通の人”ではありませんか。失礼ながら、地方には中小企業が多く、中小企業ではもっと実態をみて個々の職員を生かすことが必要ですし、それが可能です。減点法でチェックするのではなく、その人のいいところに着目して使える余地が大きい気がします。
 また、以前申し上げた 「老人特区」 「寺子屋」 「市場 (いちば)」、あるいは 「里の生活」 「森の生活」 など身近に雇用を作り出す新たな需要もいっぱいあります。
 支店長時代に 「あそこの次男坊、どこかに働き口をみつけてやらなあ」 と言って飛び回っていた人がいました。暖かさと親しみを感じたのを覚えています。雇用の改革のチャンスは皆さんの眼前に広がっています。



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