10月21日付
地方議会

全体の「幸せ」目指し論議を

「懐の深さ」と「謙虚さ」カギ
議員は是々非々の立場通せ


 新しく生まれた市や町で、今までとは違った雰囲気の中、新しい街づくりが徐々にではあるが確実に進んでいるような気がする。喜ばしいことだ。この機会に住民が 「主」 となる民主主義と地方自治が本物になってほしいと願う。
 まず、合併により新しい陣容となった議会と行政が新しい関係を生み出そうと一生懸命になって努力しているのが感じられる。この時期、首長や議員を初めとして地方政治や行政にかかわる方々は本当に大変だ。戦後60年間も拡大一辺倒で行われてきた政治経済の負の遺産を、集中的に解消する重大任務を負わされたのだから本当にご苦労なことだ。誰にでも出来ることではない。今世紀初頭の最大の仕事だと考えて、住民の負託に応えていただきたいものである。
 これからの地方政治は本当に厳しい。国の方針に従順に従ってきた 「付け」 を払わされる冬の時代の到来だ。行政と議会が、あるいは議会の会派が内輪争いをしていられるほど呑気 (のんき) な時代ではない。官民一体となって初めて乗り越えることが出来るか否かという難題に対して、市や町の存続をかけた必死の努力が求められる時代である。
 従って選挙が終わって首長の方針が承認された今、議会と行政は力を合わせて現状の問題点や新しい方針を住民に噛 (か) み砕いて説明し、納得させることに、まずは力を注いでほしい。方針に多少の異論はあってもそれは次の選挙まではお預けにしていただきたいものだ。「まず改革ありき」 ではこれから進めようとする諸々 (もろもろ) の改革や施策を住民は納得しない。厳しい現実を受け入れた後に、未来に小さくとも希望と夢を見出すことが出来た時、初めて改革を受け入れる気持ちになるものだ。
 改革や諸々の施策は 「住民全体の幸せ」 を、どうしたら実現できるかという点に照準を置いて論議が行われるべきだ。従って一部の支持者の声高に流されるのは、利権狙いに組していると見られても仕方がない。  住民は、議会と行政の深刻な対立も癒着もそのいずれをも望まない。あくまで政策の是非と優先順位をめぐる議論と厳しいチェックが、相互に緊張感を持って行われることを望んでいる。また議員がいたずらに党利党略に走ることや党派の対立を、住民は望まない。
 地方政治において、そもそも議員が会派を作って群れること自体、住民にとってどれほどの意味があるのか疑問である。官民一体となって難関を乗り越えなければならないとき、議論すべきは首長の大方針のもと行われる施策の是非と内容・優先順位などの方法論であろう。従って議員の立場はあくまで是々非々であるべきだ。首長選挙で敗れた会派が、徒党を組んであらゆることに反対するようなことは、絶対にあってはならない。それはこれから新しい街づくりに必死になって取り組んでいこうとする人々にとって大きな迷惑である。議員が健全な批判精神を持つことはもちろん必要だが、政策の是非を超えた批判や反対は住民の敵であることを忘れてほしくない。
 民主主義の前提として、常に少数意見に耳を傾け、可能な限り少数意見を尊重することの大切さは言うまでもないが、多数派の懐の深さと少数派の謙虚さが地域発展のキーとなる。ひとたび議員として選ばれたからには、第一には地域全体の幸せを考えるべきで、選出母体の利害を考えるのはその次であるべきだ。
 自分の選挙区のことしか考えないような議員は、そんな議員を選んでしまったことを選挙民自身が恥ずべきである。一時的には得をしたような気になっても、将来的には計り知れない大きな損失をしていることを考えるべきである。地縁・血縁を超えて政策本位で行動することが正しい道であることを、議員も心の底では分かっているはずだ。
 今後、地方自治を本物にしていくためには、行政と議員の関係、議員相互の関係、住民と議員との関係が問い直され、新しい時代に相応 (ふさわ) しい関係が築かれていくことが、地域の発展の上で欠かせない要素と思われる。
 今、あちこちの市や町でその胎動が起きているという。うれしいことだ。他県に先駆けて、山梨の政治が大きな一歩を進めるために、この絶好のチャンスを生かしたいものである。



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