10月28日付
改憲論争

憲法改正は“国際問題”だ

政治的意味持つマスコミの 「中立」
批判封じかねないメディア規制


 9月総選挙でにぎにぎしく争点とされた郵政改革があっけなく成立、いよいよ影の本題である改憲問題が具体的争点として浮かび上がってきた。
 それでという訳ではないが、最近完成した 『映画日本国憲法』(制作・配給シグロ)を見る機会があった。ジャン・ユンカーマン監督が、日本戦後史に詳しく 『敗北を抱きしめて』 などの著書で有名なジョン・ダワー、新憲法制定作業に関わり、女性の権利確立や社会福祉充実への道筋をつけたベアテ・シロタ・ゴードン、戦争における女性への暴力について積極的に発言しているシン・ヘスなど世界各国の知性を代表する12人にインタビューを行い、これと映像をつなぎ合わせた80分ほどの作品だ。
 ユンカーマン監督は 「9・11」 直後にアメリカ人の95%と、オピニオン・リーダーのほとんどが軍事的制裁を支持していることに驚き、これに疑問を提示する人を探して、言語学者ノーム・チョムスキーの 『9・11』 という著作に出会う。そして作られたのが2002年の 『チョムスキー9・11』 (残念ながらまだ見ていない) であり、これに続く作品がこの 『映画日本国憲法』 である。いうまでもなく、焦点は9条の問題にある。
 なお、ユンカーマン監督は日本に深い関心をもっており、代表作の一つが与那国島の老漁師の姿を描いた 『老人と海』 (1990年) だという。
 この映画で発言している唯一の日本人は、水俣病や部落解放運動など市民運動に関わり続けた日高六郎さんで、この日高さんも今はパリに在住している。
 つまり、この映画の特徴は徹底的に 「外」、つまり外国からの視点で改憲問題を見つめているところにある。日高さん自身、この映画の中で、「憲法 『改正』 を国内問題にしてはだめ。国際問題なのですから」 と言っている。これには、いろいろなことを考えさせられた。
 対アジア外交や経済関係上マイナス材料になると分かっていながら、靖国参拝を続ける小泉純一郎首相のやり方をみていると、改憲についても内向きだけの判断しかないのではないかと不安になる。靖国問題のようなストレートな反応はいまのところないが、日本の改憲の動きに、アジアをはじめ世界の注目が集まっていることを忘れないようにしたいものだ。
 次に、この問題をめぐるマスコミの扱いに若干の違和感をもっている。与党の改憲案や改憲手続きとしての国民投票法案については大きく報道されるが、9条改憲に批判的な動きの報道は小さい。9月10日に甲府で開かれた 「憲法9条講演会」 のことを、県内メディアで一番しっかり伝えたのは本紙だった。日刊紙は選挙報道で忙しかったという点を差し引いても、バランスが悪い。
 国会の勢力図でいうと、明確に反対をしているのが社民党と共産党だけ。だから反対運動は党派的な動きだということで、形式的中立を旨とする各社は無視、ないしは小さな扱いということらしい。
 でも、このマスコミの自粛は問題だと思う。9条改憲反対者は先日亡くなった後藤田正晴さんのような保守政治家にもいるし、「支持政党ナシ」 派も少なくないはずだ。だからこれは決して党派の問題ではない。
 後の時代に現在の新聞記事だけで歴史を知ろうとする人がいるとすると、ごく少数の反対はあったが、改憲はあまり論議もなく進められたというイメージを持つに違いない。「中立」 自体が政治的意味をもつことにマスコミは気づいて欲しい。
 この点で興味深いのは、本紙の9月23日の記事が報じた、社民票が甲府で倍増しているという事実だ。組織的活動が弱い社民党が比例の南関東ブロックでも1.4倍も票をのばしているのは、ジワジワと増えている改憲危惧 (きぐ) 層がこんな形で意思表示したのではないか。
 これと関係して、憲法改正案の手続きとしての国民投票法案に注目しておく必要がある。とくに問題として意識しておかなければならないのが、メディア規制の問題だ。最近、権力がメディアを抑え込もうとする動きが目立つ中で、国民投票法の与党案では 「虚偽や公正を害する報道の禁止」 がある。これが悪用されると、批判の動きが封殺されることになりかねない。今後の動きに注目したい。



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