12月16日付
産業戦略

新たな中国リスクをどう読むか

アジア戦略見直す時期に
求められるグローバルな発想


 山梨からニット産業が消えて久しい。お隣の諏訪・岡谷では、地域の主力産業である電気・精密機械など組立加工型産業が海外に移転し産業の空洞化に苦しんでいる。雁 (かり) が海を越えていくように、企業・産業が世界の工場といわれる中国に渡っていく、いわゆる雁行型 (がんこうがた) の産業移転である。
 数年前、深せんを訪れたときのことである。日本人としてはじめて中国本土に工業団地を開発したシンセンテクノセンター日技城製造廠の石井次郎さん (宮川香港有限公司代表) にお目にかかることができた。中国に進出したものの事業を軌道に乗せることができずに苦しんでいる中小企業は多いが、彼は中国側との交渉は一切不要という特区的工業団地を中国本土に開発していた。そこには関満博一橋大教授のゼミ生も大勢、研究に見えていた。
 石井さんは「岡谷市さんは毎年、大勢の経営者を連れてやってきますよ…」「岡谷市でも中国本土に工業団地を造って地元企業を応援したい…という話まで出ましたよ」という彼の言葉は衝撃的で今でも忘れることができない。
 その中国に新たなリスクが出てきた。
 日中関係がギクシャクし、靖国問題、歴史認識問題、東シナ海の春暁ガス田の問題、元の引き上げ見通しに伴う輸出拠点としての魅力の低下。国内的には、政治・経済体制の矛盾、2008年北京オリンピック、2010年上海万博に関連したバブルの進行、内陸と沿岸の所得格差、国有企業処理と失業問題、エネルギーや黄河断流に見られる水問題など難題が山積し、改めて中国をどう見るかが問われている。
 さて、日本の製造業はその34.3% がすでに海外へ進出している。中でも輸送・電気・精密機械や鉄鋼の進出率が高く、自動車では50% を超えている。県内の製造業に占める機械・電気・電子・精密・輸送機械のウエートを見ると、製造品出荷額などで53%、従業員数では43%を占めていて、山梨でも空洞化が起こっても不思議ではない。
 しかし、山梨に立地している企業を個々に見ていくと、ロボットや製造装置メーカー、関連する裾野 (すその) 産業が多い。中でもNC(数値制御) ロボットはファナックなど数社だが生産額では全国の43%を占め日本一の集積地である。また、半導体製造装置関連企業は東京エレクトロンATを中心にクラスター(集団)を形成しており、生産額は全国の12%を占めている。
 これらの産業は電力や水などの資源や裾野の産業基盤が整備されなければ移転は難しい。山梨で産業空洞化が大きな問題になっていないのは、このマザーマシン (機械を作る機械=工作機械) など工作機械関連産業のウエートが高いことにある。
 しかし、中国でもASEAN (東南アジア諸国連合) でも産業基盤整備が着実に進んでいる。例えば、山梨からタイに進出したタイニスカではすでに家庭用ロボットの組立が始まっている。企業は「最もコストが安いところで生産する、需要のあるところで生産する」のは当然である。従って、ロボットや製造装置メーカーが永久に山梨にとどまっているとは限らない。
 また、企業誘致もそう簡単ではない。三重県が液晶メーカーであるシャープ誘致に成功し注目を集めているが、誘致にあたって三重県は90億円、立地した亀山市は45億円の補助金を出している。
 歴史学者トインビーは「日本の将来はどうなるか」という問いに「歴史家としての見方だが、中国の存在はともかく、アジアで大きな可能性を秘めている地域は三つ、日本・朝鮮半島・ベトナムである」と答えている。グローバル化が進み「チャイナ・プラス・ワン」 としてベトナムが注目されている。BRICs (ブラジル、ロシア、インド、中国) の一角を占めるインドも台頭してくるだろう。
 山梨は、中央高速道路の開通によって内陸工業基地として注目され、煙突のないハイテク資本財産業の誘致に成功し恵まれた環境にある。しかし、激動の時代でありグローバルな発想が求められている。
 山梨総合研究所では5年ほど前から 「アジアフォーラム21」 というアジア研究会を開催している。この会は、風間善樹元東京エレクトロン副社長、アジア研究の第一人者で、日本のODA戦略会議の議長代理を務めている渡辺利夫山梨総研理事長 (拓殖大学学長)、波木井昇山梨県立大学助教授、企業経営者などのメンバーで毎月アジアに精通した講師を招いて自由にディスカッションしている。いろいろな業種の経営者の参加を期待している。



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