11月19日付
変化

企業誘致から 「人材力誘致」 へ

“文化”あるところに人材集う
求められる受け入れ側の文化力


 内陸県山梨は、これまで道づくりに賭けてきた。1982 (昭和57) 年の中央高速道路全線開通によって大型工作機械メーカーや電気・電子分野の企業誘致に成功し、全国一のロボット生産拠点といわれるハイテク工業基地を形成するまでになった。雇用環境は好転し、県民所得も上昇するなど山梨の産業政策は順調に推移してきた。しかし、「世界の工場」 と言われる中国の発展は、県内企業にも工場移転を迫ることとなり、海外生産比率の上昇とともに新たな産業政策・産業戦略が求められている。
 一方、経済社会が成熟化するにつれて人々は効率性の追求による便利で快適な生活だけでは満足できなくなり、心と身体に忍び寄る疲弊感、焦燥感に対する欲求が高まりつつある。国では 「美しい国づくり大綱」 の制定、「景観法」 の制定など文化資産、文化資本、文化力など美しい国づくり、まちづくりへ政策の舵 (かじ) を切りつつある。
 さて、こうした環境の中で 「2006年からいよいよ人口が減り始める」。テレビや新聞では毎日のように報道されているが、あまり切実感はない。では、「これから20年間に東京の人口に匹敵する1000万人が消えてしまう」 と言えばどうだろうか。信じられないと言いながらも多少不安になってくる。しかも、東京の人口は減らず、その影響は地方に、地方都市に顕著に現れることになる。シャッター通りが増え、空き店舗や空きビルが目立ち、犬や猫しか歩いていないゴーストタウンを想像するとぞっとするのではないか。人口減少社会の到来は必然である。まもなく現実になってくる。
 また、「2007年問題」 も深刻である。47 (昭和22) 年から49 (昭和24) 年にかけて生まれた第1次ベビーブーム世代、すなわち 「団塊の世代」 といわれるおよそ300万人が07年から順次定年退職を迎えることになる。人口比で見れば山梨では2万1000人ぐらいになるだろう。
 善きにつけあしきにつけ日本の生産・消費・雇用など経済社会に大きなインパクトを与え続けてきた団塊の世代が第一線の労働市場から消える。60歳代の求職者が激増し、少子化も重なり深刻な労働力不足が起こるかも知れない。高度な技術力不足に陥ることも予想される。
 だが、この変化をいたずらに不安視してもはじまらない。むしろ地方はこの変化をチャンスに変えていかなければならない。
 最近、伊豆方面で東京の一流ホテルやレストランで料理長を務めていた人が、小さなレストランを開業する動きがある。定年間近になって、第二の人生を田舎で暮らしたい、自分の店を持ちたい、新鮮な食材があるところで思う存分腕をふるいたい。そんな願いを結晶させたものである。
 フランスにはリタイアしたシェフたちによる 「シェフビレッジ」 があるそうだが、地方にとっては一流のシェフを誘致するチャンスである。そのためには、一流のシェフが住みたくなる森づくり、水辺づくりなどにも配慮しなければならない。一流の人材は文化を食らう人であり、文化のあるところに人材は集まってくる。景観は文化的な資源である。付加価値を生み出す源泉でもある。
 県も市町村も、そろそろモノづくりを念頭に置いた企業誘致から技術や腕を持った人、人材力誘致に力を入れるときではないだろうか。
 もう10数年前のことになるが、湯布院に竹の工芸家が移り住んできた。しかし、なかなか生計が成り立たない。そこで湯布院の観光協会では、その工芸家に 「青竹の箸」 を作ってもらいたいとお願いする。その箸を各旅館が一膳 (いちぜん) 1000円で購入して定住できるまで応援したというのである。一つの文化を地域の魅力として育て上げていくためには受け入れ側にもそれなりの文化力が求められる事例である。
 普遍的なものは常に次の新しい普遍的なものにとって変わられる可能性がある。文明は普遍的であるがゆえに滅びていく。地域の風土を見つめなおし地域固有の生きる形を見出さなければならない。





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