12月24日付
農地復活

「生活・文化産業」創出に知恵絞れ

“ボラバイト”や地産地消の推進
全国上回る遊休農地比率の中で


  「山が荒れている」「山村の崩壊が始まっている」「俺の代で百姓はおしまいだ」 こんな声があちこちから聞こえてくる。
 県内の耕作放棄地 (遊休農地) は1985年には1576haであった。しかし、その後増え続け95年には2641ha (総耕地面積の11.1%) に、2000年には2959ha(同13.8%)に拡大している。全国の遊休農地比率が同3.8%、同5.4%であり、山梨は全国でも耕作放棄された農地面積の比率が最も高い県のひとつである。
 耕作放棄地とは1年以上作物を栽培せず、今後も数年間、再び耕作する、はっきりとした意思のない状態の農地のことである。
 さて、北杜市須玉町増富地区には、61haの農地がある。そのうちの6割を超える38haが耕作されていない。地区の人口は729人、うち65歳以上人口が426人で高齢化率は58.4%に達している。高齢化が進み耕作放棄を余儀なくされている実態が浮かび上がってくる。増富地区に限らず過疎地と言われる里山一帯はこのような状況が進行し崩壊寸前の集落もある。5年後を考えると誰が農業を守るのか恐ろしくなってくる。
 こうした中で、01年6月に設立された 「NPO法人えがおつなげて」 は都市農村交流プログラムを展開し、遊休農地の復活に乗り出した。まず、旧須玉町とともに 「増富地域交流振興特区」 を申請し、山梨県の第1号に認定されている。
 その仕組みは、農地を町が借り受け、NPO法人に貸し付ける。NPO法人は都市との交流を通じて援農隊を募り、農地を復活させ、集落機能を維持していこうとするものである。ボラバイト (ボランティア・アルバイト) を全国から募って開墾に取り組み、昨年までに1.3haの農地を復活させ、大豆・ジャガイモ・花豆・トマトなどを栽培している。今年はすでに1.5haの開墾が終わり、5年後には増富地区の遊休農地の4分の1に当たる10haまで広げるという意気込みである。
 農業を労働としてではなく、体験・学習・楽しみとしてとらえる動きは全国に広がっている。ボラバイトもその一つだが、ドイツやフランスで盛んな都市住民が農家に民宿して農業体験をする 「グリーンツーリズム」 や、オーストラリア、ニュージーランドなどで盛んな青少年に限って観光ビザで働きながら旅行することを認める 「ワーキングホリデー」 の国内版とも言える農業体験に人気が集まっている。大分の安心院町や長野の飯田市、宮崎の西米良村など全国各地で活動の輪が広がっている。
 一方、農業後継者不足が深刻化する中で、農林水産省は農政改革を進めている。新しい指針は、一定規模以上の農家に重点的に助成することによって、大規模農業へ誘導しようとするものである。農地関係法令についても企業の農業参入の壁を緩和する。企業の農業参入はこれまでは賃借方式で、しかも構造改革特区内に限定されていたが、改正後は特区に限定せず全国どこでも参入が可能となる。
 しかし、企業化し、大規模化、集約化して効率性を追及するだけで果たして耕作放棄地の問題が解決されるとは到底思えない。急傾斜地や棚田 (たなだ) など大規模農業の導入が難しい過疎の耕作放棄地はどうなるのだろうか。条件不利農地の支援策としては 「中山間地域等直接支払制度」 があるが、貨幣価値を尺度に経済効率を求めようとする発想ではしょせん限界がある。
  「食料・農業・農村基本計画」 に盛り込まれているように、都市と農村をつなぐコーディネーターやプロデューサーの養成、ドイツの 「クラインガルテン」 やロシアの 「ダーチャ」 といった週末菜園を楽しむ生活スタイルの支援、地産地消の推進や小さな流通づくり、バイオマスエネルギーの活用、健康・文化・芸術・教育などを融合した新たな 「生活・文化産業」 や 「生命・生存産業」 づくりに知恵を絞るときではないか。





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