1月6日付
新たなバランス感覚

危機的状況の今なすべきこと

「拡大均衡」から「縮小」への試み
スローライフに新たな豊かさを


 波乱万丈の一年が過ぎた。予想もしなかったことが次々と起きて今や時代が大きな曲がり角に差し掛かっていることを感じる。宇宙での数々の挑戦や発見は人類の未来に大きな可能性と期待を示唆するものだが、一方、足元を見ると国の内外でいろいろな形で暴力が闊歩 (かっぽ) している。我々はこのまま座視して良いのだろうか。年の初めに当たり人として生きていく上で最も基本的なこと、「人間社会とは」「人と自然とのかかわり」「日々の営み」などについてあらためて見つめ直してみたい。
 昨今頻発している小学生への殺傷事件や諸々 (もろもろ) の凶悪犯罪を見るにつけ、これまで「人々の善意」を信じ性善説に立脚して社会を作ってきた大前提が、今や音を立てて崩れるかのような有様 (ありさま) は何ともやりきれない思いである。人はかくも簡単に「悪魔」になってしまうものなのだろうか。
 我々現代人の人間性は、知らず知らずのうちにとんでもなく堕落してしまっているのだろうか。釈迦が説いた「末法の世」とはかくなるものかと思えてくる。人間が人間を信じ切れなくなったとき、人は一体何を頼りにして生きていけば良いのだろうか。「安易に人を信じてはいけないよ」と登校する子らに注意を喚起せねばならない状況は、かつて「先進国の中で稀 (まれ) にみる治安の良い国」と自慢してきた我が国社会の、あまりに急な変容を嘆かざるを得ない。
 警備を強化し自衛手段を講ずることは当面の措置としては必要だが、それだけでは根本的な解決には到らない。いわゆる「モグラ叩き」の域を出ないともいえる。まして性悪説を前提にした社会に作り変えることなどあり得ない。あくまで人々の善意を信じて、安心して生活していける社会を築き守り通すことを決意し、抜本策を考えなければならない。
 まずは、幼児から成人するまでの間に家庭・学校・社会の至る所で「生まれてきたことの尊さ」「隣人のために尽くす愛の喜び」などを通じて「生きていく上で果たさねばならぬ使命」をあらゆる機会を通じて教え体得させることに、今までにも増して精を出さねばならない。次の世を担う者たちに対して、果たさねばならぬ現役世代の我々の責務であると思う。
 食事の前に口にする「いただきます」という言葉はこれから頂く食物に対して「お命を頂きます」「あなた様のお命を頂戴 (ちょうだい) することによって、私の生命を保たせていただきます」という意味であると聞いた。飽食の時代にあって、あらためて身が引き締まる思いである。昨今でこそ我々は「自然との共生」を口にするようになったが、人類はこれまで長い間、一方的に動植物を犠牲にし自然を破壊して生活してきた。文明の発達は自然を破壊し、地球の寿命を縮めることによってなされて来たことにあらためて思いが走る。
 数千年の年月をかけて蓄積されてきた、いわゆる化石資源を産業革命以後せいぜい200年ぐらいの間で使い果たしてしまう一方、本来自然界に存在しない化学物質、しかも循環しない、いわゆる廃棄物を大量に作り出し、環境を汚染しているといわれる。そんなことまでして我々の社会は経済や産業を発展させ豊かさを享受して来たのか。現代社会が危機的状況におかれているという状況すら未だに広く理解されていないという。自分自身のためにも子孫のためにもよく考えてみないといけない問題だと思う。
 本年度の国家予算の全体像が見えてきた。今まで先送りされてきた財政再建にようやく本腰を入れて取り組もうという姿勢は理解できるが、その矛先は一方的に国民に向けられているように思う。増税や控除の廃止に加えて、各種の負担の増加と給付の削減は我々の日常生活を直撃する。財布のひもは一段と締まることになりそうだ。先々の諸々の不安が頭をよぎり消費は先細りせざるをない。
 心配されるのはせっかく上向きつつある景気への影響だが、戦後60年もの間、拡大を続けてきた我々の消費生活を一度根本から見直す絶好のチャンスともいえる。電化製品や情報機器は最高の機能を、衣服は常に流行を追って買い換え、使い捨てを当たり前と考え、大量消費を美徳としてきた「超消費生活」は人類の歴史上、異例で異常であると考えるべきなのかもしれない。
 最近の景気回復も、リストラを行ってきた企業の業績回復によるものなのだから、我々個人の消費生活も時代の変化に応じて見直すことが必要かもしれない。不要不急の物の購入は、今まで以上に慎重に検討する。修繕すれば使える物は繕う。物を捨てる前に作った人の気持ちに思いを走らせる。工業化製品にも、その原材料となったものに命があったことを思い出すということだ。
 今までは拡大均衡をひたすら目指してきたが、ここで縮小することによって新たなバランスを作ろうとする試みは、一度挑戦してみる価値のあることだと思う。案外、快適な生活・人間本来のゆったりとした時空間・スローライフに新たな豊かさを見いだすことが出来るかもしれない。



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