2010年1月15日付
『個』の種

量産品で得られぬ満足

「クックパッド」のこだわり
発想の転換で輝く素材


 年末に古くからの友人に誘われて、ある和食の店に行きました。思わず唸(うな)ってしまうような料理が、それに最も相応(ふさわしい)しい器に盛り付けられて次々と出てきます。大袈裟(おおげさ)ではなく60年近く食べてきた中で一番おいしかった。また、カウンター越しにご主人が話してくれることにも味わいがありました。食材や器、そして技へのこだわり方は並大抵ではありません。でも、それを淡々と話し、こちらの初歩的な問いにも丁寧に答えてくれました。プロの料理人の格好よさを味わった一晩でした。
 もちろん、いつもこんなご馳(ち)走(そう)を頂けるわけではありません。いわば、非日常的な喜びの極みですが、日々の生活の中にも記憶に残る喜びはあります。両者の共通点は、すばらしい「個」との出合いではないでしょうか。関係者の方々には失礼ながら、量産品では得られない満足です。量産品を見下しているわけではありません。今日のわが国があるのは、大量生産・大量消費の仕組みのおかげですし、日々の生活は量産品で賄われています。
 ただ、良質で安い量産品を作るには大きな組織と資金が必要です。また、個性を薄めないと量産はできません。ここが微妙なところです。個人的なわがままを言えば、便利な生活を享受しながら、個性的な人やものにもこだわりたいところです。
 こうした思いは僕だけでもないようです。安いジーンズが流(は)行(や)っている一方で、自分だけとかオリジナルと感じられるものは高くても人気があります。例えば、デザイン、色、革を選択できるバッグとかネーム入りの土鍋。また、高級な炊飯器などもよく売れているようです。
 ちょっと意外な感じがして、かみさんに聞いたところ、家(うち)で料理することへの関心が高まっているからではないかと言われました。教えられた「クックパッド」というインターネットのサイトをみて、びっくりです。普通の人達が自分の料理のレシピを投稿し、そのレシピを利用して実際に作った別の人が感想を投稿しています。食材(例えば、豚肉と人参(にんじん))で検索すると様々な創作料理が写真とレシピ付きで出てきます。このサイトの利用者は何と月間8百万人以上です。サイトの社長が「料理を楽しめる生活が広がればいい社会になる」と言っていましたが納得です。自分のオリジナル料理や食へのこだわりを自分だけのものにしないで、みんなと共有して楽しむ世界がこれだけ大きくなっていることを初めて知りました。
 大量生産・消費文化へのアンチテーゼなんて大袈裟(おおげさ)なことは言いません。ただ、大きな組織や資金がなくても感性と発想があれば新しい「個」は生まれます。しかも、自由な分だけ「個」は元気です。初めは小さくても、その楽しみを共有したい人達がいれば、「個」の元気もどんどん膨らんでいきます。
 山梨にも「個」の種(たね)はいっぱいあります。みなさんがこだわっているものこそ宝です。ワインや果物のようにすでにブランドになっているもの以外にも、ちょっとした発想の転換で輝いてくる「個」があると思います。
 また、それをただの「個」に埋没させないためには、下らないと馬鹿にしないで盛り立てることも大事です。インターネットを活用するだけでなく、今だからこそ、口コミもインパクトがあります。また、これまでの常識を超えていくには、若い人達の知恵やネットワークも必要です。「やっぱり○○は山梨!」を増やしてみんなで元気な年にしませんか。



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