2010年2月19日付
地域雇用

ブルーからグリーンへ

「環境、健康、観光」へ
地域資源生かし新産業


 米国の消費に限界が見えてきた今、ものづくりの現場である地方の雇用は大きな転機を迎えている。先日、新聞で一橋大学の関満博教授のコラムを読んだ。教授は「地域産業論」「中小企業論」が専門で、全国の工業集積地で私塾、たとえば、ひたちなか市の「ひたち立志塾」八王子市の「はちおうじ未来塾」などを展開し、中小企業研究奨励賞特賞などを受賞している現場主義を掲げる学者である。
 さて、10年前の話である。中国広東省珠江デルタの東莞(とうかん)を訪れた。当時はまだ開発途上で、道路も整備されておらず香港から深(しんせん:せんは土へんに川)を越えて東莞には車で2時間以上かかったように記憶している。まるで西部劇の映画のように埃(ほこり)っぽい荒涼とした町であった。
 この地に、日本人の石井次郎さん(シンセンテクノセンター代表幹事)という方が開発した工業団地「テクノセンター」(日技城)があった。この工業団地は、入居すれば中国側と一切交渉せずに操業できるという特別区域になっていて、中小企業だけでなく大手企業も含め28社が操業していた。進出はしたものの法治国家からは程遠い中国での事業が思うように展開できず、撤退する企業が相次いでいた。ここに、関満博ゼミの学生が研修に来ていた。企業の視察も多く、諏訪市役所は毎年中小企業の経営者を連れて研修に来ていた。
 今や、中国はGDP(国内総生産)でドイツを抜き、まもなく日本を抜いて米国に次ぐ世界第2位の経済大国になろうとしている。すでに日本からは2万社を超える企業が進出し、日本国内で量産した製品を輸出するという未来は想像しにくい状況が進行し、失業者の急増、非正規社員が就労者の3割を超えるという異常事態に直面している。
 日本に残る雇用は、環境関連やエネルギー関連、研究・開発、試作開発、教育訓練・マザー工場などになっていくのではないだろうか。お隣の韓国では、経済政策の重点を需要刺激策から雇用創出策に切り替え、常勤社員を増やせば法人税や所得税を軽減する制度を導入するなど、雇用創出に力を入れ始めている。
 関教授は、コラムの中で、「今、日本で元気なのは農山村の農産物加工場、直売所、農村レストランである。農産物の直売所は全国に1万3千カ所あり、売り上げは1兆円を超えたと言われ、日本で唯一の成長産業ではないか。戦後続いてきた上から、中央から全体を引っ張ってきたモデルはもう終わりだ。高齢化が進めば進むほど『小さな地域』の重要性が高くなる。小さな地域がいかに自立していくかが重要である」と述べている。
 確かに、道の駅「とよとみ」や道の駅「はくしゅう」は活気づいている。しかし、そうは言っても雇用創出力は限定的であり、都市農村交流、建設業からの転換など農業への期待が高まっているものの、完全失業率は5%を超え、経済財政白書によると企業内失業者(雇用保険受給対象者)が600万人以上という失業者を吸収する力はない。
 山梨の農業の変遷を見ると、北海道のような単品大量生産ではなく、多品種少量生産型の都市近郊型農業である。
 「米麦から養蚕へ、養蚕から果樹へ、そして花・花卉(かき)へ」と、より反収(たんしゅう)の高いものへ展開してきた。その先に見えるのはハーブであり、薬草ではないだろうか。世界の課題は環境とエネルギーである。米国では多くの地域で従来型の製造業に衰退傾向が見られるなかで、オバマ大統領は「グリーン・ニューディール政策」を提唱し、産業構造をより環境に配慮した構造に変えていこうとしている。
 山梨の次代を担う産業として「環境・健康・観光」が注目されている。山梨総研では「ウエルネス・クラスター」=(肉体的・精神的・社会的健康関連産業の集積)を提唱している。すでにキープ協会の「森療時間」、アルソアの「自然食レストラン」、増富の湯ではJTBと組んで「温泉療法」など、温泉・水・森林・標高差を使ったトレーニングプログラム・健康長寿につながる食品開発など地域資源を生かした新産業の芽が出始めている。過渡期であり、課題は山積しているが、農山村に芽生えた自立の芽を伸ばし、環境・健康・観光・美容など「グリーンカラー」へ産業構造を転換していくチャンスととらえたい。



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