2010年3月19日付
地域価値

千三百年変わらぬ風土の力

個性の喪失が地域疲弊へ
環境、健康産業の集積を


 山梨新報のコラム『直言』を担当させていただいて8年になる。伊藤洋氏、植松増美氏、椎名慎太郎氏、増川道夫氏らと交代で執筆させていただいた。合計すると350本を超えるのではないか。椎名氏は、3月5日付本欄で、「執筆にあたって一番強く意識してきたのが『自由な意見交換に支えられる民主主義』ということであった」と述べている。また、増川氏は、3月12日付本欄で「山梨のめざす方向は環境・農林業・医療・福祉が大きな屋台骨になっていく。小異を捨ててスクラムを組んで立ち上がりませんか」と東京からエールを送っていただいた。
 私がこのコラムの中で一貫して訴えてきたことは、「地域の疲弊は個性の喪失にある。地域価値の発見こそ地域発展の原点である」と言うことであった。山梨の個性や地域価値を浮き彫りにするために各地の取り組みや地域の哲学を紹介させていただいた。
 さて、世界は、かつて人類が経験したことのない転期にある。それは、「地球規模での環境問題であり、縮小文明社会への転換であり、社会統治システムの変化」である。
 人々は、経済成長優先から成熟した文化を求めるようになり、「モノからココロへ」といわれるように物的価値重視から精神的価値の追求へと向かっている。本県においては、高齢社会が現実化し、耕作放棄地の急増、限界集落の出現、コミュニティーの崩壊が心配されるなど不安定化している。
 このような変化の中で、山梨総研は県内唯一のシンクタンクとして誕生し、この12年間活動してきた。最終回にあたり山梨総研の活動を紹介させていただき筆をおくこととしたい。
 山梨総研は、1998(平成10)年、山梨県・全市町村・民間3社(山梨中銀・YBSグループ・UTY)の出捐(しゅつえん)により誕生した。まもなく創立13年目を迎える。この間、国や県・市町村、経済団体などから400件を超える地域政策課題を受託し、調査研究と人材養成に取り組んできた。たとえば、「富士山の世界遺産化に関する調査」「観光動態調査」「公共交通のあり方調査」「環境基本計画」「行政評価システム」「地域福祉計画」「戦略的産業ビジョン」など多岐にわたっている。
 また、自主研究として、1.アジアとの連携を模索するアジア研究 2.地域資源の可能性を追求する環境・健康ビジネス研究 3.甲府城を核に小江戸といわれた元禄文化の薫るまちづくり研究 4.ワインをテーマとした国際映画祭立ち上げを目指すワイン文化研究など、県民と共に研究し政策提言してきた。現在、15年後のリニア新時代を展望し「地域のグランドデザイン策定」に取り組んでいる。
 人口八十数万人、空港も、港もない、傾斜地ばかりの山梨の未来は、とかく悲観的にとらえられがちである。しかし、前述のとおり、価値観は逆転している。
 だいぶ以前のことだが、世界的な演出家蜷川幸雄氏は愛宕山から富士を望み「ここに劇場を造りたい…」と述べている。この盆地という小宇宙は、水の国であり、温泉の国である。四方を山に囲まれた安らぎの国であり、健康長寿の国である。また、山の向こうに何があるかと想像力を駆り立てられる創作のゆりかごであり、小さいながらも持続可能性を内在した文化圏を形成している。
 山梨総研では、昨年7月、「ウエルネス・クラスター」(環境や健康関連産業の集積による地域形成)について教育システムの創設を盛り込み、全国のセンターを目指していく構想を提言した。東京や名古屋に追随するのではなく、これらの都市機能を使いながら山梨ならではの産業を育てていかなければならない。
 これから道州制の問題も俎上(そじょう)に上ってくるだろうが、律令時代から今日まで1300年もの間、幾度かの府県統合の嵐を潜(くぐ)り抜け、県土の形をまったく変えずにきた甲斐の国、山梨の風土の力とは何か、地域価値とは何か、改めて問わねばならないのではないか。
 本欄をご愛読いただき、アドバイスやご感想などお寄せいただいた皆様にこの場をお借りして感謝申し上げたい。



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